晴海フラッグ

東京オリンピック・パラリンピック2020大会の選手村として利用された「晴海フラッグ」。新型コロナウィルスの影響で1年遅れで選手村として利用した後は、改修を行って大規模な分譲マンション群となっています。今回はその晴海フラッグについて書きたいと思います。

 

東京都は約540億円の費用をかけて道路を整備し、市場価格よりも低価格（約129億円）でデベロッパーに都有地を売却をしたとして、一部の都民から「売却価格が安すぎて、都民が利益を享受出来なかった」という趣旨で提訴されています。

デベロッパーは安く土地を買えたこともあり、晴海フラッグの分譲価格は周辺のマンションと比べて低価格で分譲されました。そのような事情や東京大会の選挙村ということから購入希望者が多くなり、部屋によっては競争倍率の平均が70倍程と高く、更に人気が高い部屋では200倍超の部屋も複数ありました。それを見て販売の際に投資目的の応募に制限をかけて、応募は「1名義2部屋まで」といった制限を設けました。

これまでの販売の流れは下記の通りです。

2019年4月　分譲マンションの販売開始

2021年7月　東京オリンピック・パラリンピックの選手村として活用

2023年2月　分譲マンションに応募が殺到し、高倍率が明らかになる

2023年4月　タワマン販売に戸数制限を設ける

2023年7月　タワマンの販売開始（完成は2025年）

2024年1月　分譲マンションの住民が入居開始

私のように不動産業に従事していると、「晴海フラッグは実需で住みたいファミリー層が買えなくて、不動産業者が買って転売している」という話は耳にしていました。また不動産売買・賃貸物件が掲載されているウェブサイトを見てみると、実際に晴海フラッグの多数の物件が売買・賃貸物件として流通していることが確認出来ます。

この件をＮＨＫが問題視して晴海フラッグの取材を掘り下げており、その報道を見ましたがＮＨＫは全物件の不動産登記簿を取得して所有者を調べていました。その所有者調査によると、ある棟では1089戸のうち4分の1超の289戸が法人所有となっており、別の棟では法人所有の割合が4割に及ぶ棟もありました。複数物件を所有する法人もあり、一社で38戸を所有する法人もありました。

ＮＨＫは個人・法人の一部投資家に接触して対面取材を行い、不動産投資の実態を確認していました。その取材では個人投資家は妻・父親の名前を借りて複数の申し込みをして購入して、現在は賃貸で運用していました。別の投資家は所有する8つの法人名義と個人名義で18部屋を申し込み、6部屋を購入していました。

結果として分譲時よりも高い価格で転売されていき、晴海フラッグは不動産投資の舞台として盛況となっているのです。不動産投資という行為が悪い訳ではなく、都有地を税金を投じて整備したうえで市場価格よりも低価格でデベロッパーに売却したり賃貸運用されて、近隣物件よりも低価格で分譲されたマンションが商材となって、一部の投資家が転売等で利益を生む構図となっている点をＮＨＫは問題視しているのです。晴海フラッグは東京大会の後にファミリー層に住宅供給することが目的でしたが、一部では不動産投資の舞台となり、実需のファミリー層に届いていない訳です。

販売事業者の三井不動産レジデンシャルの見解は「個別の契約内容に関わることは回答出来ません」、東京都は「対策を講じることで抽選倍率が下がるなど、一定の成果はあった」といった回答でした。人気が高い物件だったので、個人的には転売防止策を講じたりするなどで、もっと実需のファミリー層が手に入りやすいようにするべきだったように思います。

約540億円で整備して約129億円でデベロッパーに売却しておき、投資家が儲けているとすれば買えなかったファミリー層は不満でしょう。更に約129億円という価格は1平米あたり96800円ですから、23区内の地価としては破格です。地域の小学校を建設する費用をデベロッパー側が持つなどの特段の事情はありますが、提訴したり不満を持ったりする人がいるのも分かりますね。

この記事を書いた⼈

株式会社アドワン・ホーム　代表取締役
古田 晋一

宅地建物取引士、公認 不動産コンサルティングマスター、１級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®︎認定者

新卒で入社した総合不動産賃貸業者にて賃貸仲介・管理業務等に従事したのち、住友林業ホームサービス株式会社にて不動産売買仲介を経験。
営業時代に最優秀個人売上賞（全社1位）をはじめとして住友林業グループ表彰（年間全社3位以内）を複数回に渡り受賞。店長・支店長時代には店舗損益予算達成率 全社1位、営業部長時代には部門損益予算達成率 全社1位を獲得するなど、各ステージで特別表彰を受賞。