修繕積立金が足りない！

分譲マンションの所有者であれば、管理費と修繕積立金を毎月支払っていると思います。修繕積立金は将来の大規模修繕に備えて全ての区分所有者で積み立てていくのですが、最近では積立金が不足しているケースが増えています。今回は修繕積立金について書きたいと思います。

 

新築マンションの場合、売主の不動産会社は「購入後の表面的なコストを低く見せたい」為に、売主が当初の修繕積立金を低めに設定しているケースが多いことが不足の原因の1つです。積立金には「均等式」と「段階式」という異なる2つの積立方式があり、段階式は数年おきに積立金を上げていく計画になっているのですが、管理組合が積立金を上げていないケースが増えています。

売主の不動産会社は分譲時に長期修繕計画を作っていますが、多くの物件で段階式を採用しており、分譲後は管理組合が積立金を計画的に上げていく必要がありますが、値上げをしないまま時間が過ぎることも多いのです。管理組合の理事長や理事は管理費・修繕積立金の値上げは労力が必要で、値上げに反対する区分所有者もいて長期修繕計画に沿った予定額に上げられないケースも増えてきました。値上げには値上げの都度、管理組合での決議が必要となりますが、予定していた数年おきの値上げについていけなくなる区分所有者も出てくるのです。

また、均等式の物件もあり、購入当初は段階式よりも積立金は一般的に高額ですが後年の負担は相対的に低くなります。売主が売りやすくする為に購入後のコストを低くしたい心理が働き、多くの物件が段階式を採用して売主の都合によって均等式が避けられている現状があります。

分譲時から段階式を続けていて、ある時点で理事長らが修繕積立金の不足に気付き、区分所有者に説明を尽くして納得の上で均等式に変更する管理組合もありますが、均等式なら安心という訳ではありません。修繕積立金月額が低ければ値上げが必要になります。均等式は「引き上げを想定していない」との思い込みもあり、段階式以上に強く反対する区分所有者も出る可能性もあります。

そんな中、「修繕積立金を運用で増やそう」とする管理組合が増えています。住宅金融支援機構が管理組合向けに発行する運用商品「マンションすまい・る債」の2024年の応募数は3割増となりました。管理組合向けの運用商品を開発する金融機関も現れ始めています。

同債権は政府が全額出資する住宅金融支援機構が管理組合の修繕積立金の運用向けに販売しているのですが、2024年度の応募数は3502件で直近2年で2倍弱に膨らみました。利回りは市中金利の動向などを踏まえて決めており、日本銀行が1月に利上げを決めたことで2025年度の募集の際は利回りが高くなる可能性が高まっています。ちなみに同債権の2024年発行分の利回りは0.5％（管理計画認定を受けた場合は0.55％）です。

また、融資型クラウドファンディングのFunds（ファンズ）という会社が、2024年12月に管理組合向けの金融商品を開発しました。融資型クラウドファンディングは投資家から集めた資金を企業に融資し、収益の一部を投資家に分配する金融商品です。予定利回りは1〜3％と「マンションすまい・る債」よりも高いです。

更に独自の運用をする管理組合もあります。川崎市のパークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーという武蔵小杉駅前のタワーマンションでは、敷地内駐車場を外部貸しするなどの実物資産運用の他に、修繕積立金を原資に金融資産運用による利益を組み合わせて、15年間で約2億4000万円の利益が出ています。同管理組合法人では現在20億円強の資金を社債を中心に運用しています。

マンション住人から「修繕積立金を定期預金で預けていても、利息が低くてもったいない」との意見が発端で、審議会を発足。マンション住人から審議会の委員のなり手を募ると大手証券会社や投資銀行の現役社員・OB、信託銀行の資産運用部社員、ヘッジファンド運用者などが集まりました。

「修繕積立金という性格の資金だけにハイリスク・ハイリターンではいけない」という観点などから、リスクは低めで相応のリターンが狙える社債運用にたどり着いたようです。このような独自運用の管理組合はまだまだ少数ですが、修繕工事代も年々高くなってきており、一般的な運用手段である定期預金だけでは優良な手段と言えないかもしれませんね。

この記事を書いた⼈

株式会社アドワン・ホーム　代表取締役
古田 晋一

宅地建物取引士、公認 不動産コンサルティングマスター、１級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®︎認定者

新卒で入社した総合不動産賃貸業者にて賃貸仲介・管理業務等に従事したのち、住友林業ホームサービス株式会社にて不動産売買仲介を経験。
営業時代に最優秀個人売上賞（全社1位）をはじめとして住友林業グループ表彰（年間全社3位以内）を複数回に渡り受賞。店長・支店長時代には店舗損益予算達成率 全社1位、営業部長時代には部門損益予算達成率 全社1位を獲得するなど、各ステージで特別表彰を受賞。